『ボクと魔王』
ハード :PS2
ジャンル:RPG
個人的神ゲー
キャッチフレーズ「世界一地味な神ゲー」
このゲーム以上に好きになるゲームができたのならば、それはとても幸せなことだろう。
そう思えるくらいには神ゲーだと崇め奉っています。
あらすじ
影の薄い主人公が、ひょんなことから己の影に魔王を取りつかせてしまう。
しかし、世界には大量の(偽)魔王が溢れている。主人公は影魔王に言われるがまま、(偽)魔王退治に出ることとなる。
その中で出会うのは勇者に学者に王女。
冒険の果てにあるものとは。
システム
正直、システム面はあまりよくないゲーム。
カメラワーク
プレイヤーの任意で動かせるが、壁や障害物にぶつかり視界を遮られる。後述するエンカウントも相まって結構なストレスとなる。フィールド上はまだいいとして、ダンジョンの中ではかなりストレスが溜まる。
ダンジョンは薄暗く、テレビによっては真っ暗になってしまうこともある。個部屋がいくつか連なっているダンジョンのため、次の部屋へ向かうとカメラが引っかかり視界が壁一色に染まる。無理に進むこともできず、一々カメラを動かす必要が出てくる。下部が見えにくいこともあり、橋を移動する場合は乗るまでが大変なことも多々ある。
エンカウント
シンボルエンカウントだが、回避しつつ進むのは難しい。
無尽蔵に湧き出し、障害物をすり抜けながら主人公に迫ってくるので、いくつか回避できてもすぐに四方を囲まれる。前述のカメラワークの悪さを相まってダンジョン内ではエンカウント率が上がる。
ちなみに、長時間回避し続けると、追いかけてくるスピードが上がる。
ダンジョン
ギミックは基本的に二つ。
その階にあるツボを全て破壊(戦闘で倒す)。魔法陣を踏む。
たったこれだけ。
細々と壁のすり抜けや歯車集めなどもあるが、殆どは上記の二つによってダンジョンが構成されている。中には、魔法陣を踏み、ツボを破壊するだけだというのに10階まであるものもある。単調すぎるダンジョンに思わず眠気が襲いかかるのも仕方のないことといえる。
また、右下にマップが表示されるが、通った部分が塗りつぶされるだけなので、最終的にただの四角が出来上がるだけ、ということもあり、迷路風のダンジョンではまったくといっていい程役にたたない。
特に、ラストダンジョンでは広大すぎるといえる広さ、迷路構造、中途半端に先が透けて見えるので区切りがわかりにくい。等の要素が加わり、攻略本がなければ二週目三週目などやっていられるか!というレベル。
戦闘
ある種ターン制なので特に慌てる必要も、技術も必要ではない。
ただ、自分のゲージが溜まると次の行動の選択ができる形式なので、敵がこちらを攻撃している途中に溜まる→敵が止まる→選択完了→敵の攻撃アクション再開。
と、多少もたつく感は否めない。
また、プレイヤーが攻撃を選択しても、対象の敵が他の行動を予定していると時間がかかる。
例)
敵1攻撃行動→プレイヤー行動選択(敵2へ→敵1攻撃行動完了→敵2攻撃行動→攻撃行動完了→プレイヤーキャラ攻撃行動。
この際、当然ながら敵が誰を狙っているかなどはわからないので、回復のタイミング等が掴みにくい。
プレイヤー側が三人に対し、敵は八体以上出ることもある。全体攻撃の少なさもあり、大量の敵が出たときの面倒くささは異常。
グラフィック・BGM
当時にしては綺麗なグラフィックだと思う。
残念なのは、フィールドの綺麗さを堪能できるのは5章(敵が出ない)のみで、他はエンカウントに追われるばかりだという点。
キャラに関しては個性的な作風で、どことなく人形劇っぽさが感じられる。人形劇はCMにも使われており、物語の根幹にも関わっているのであえてしているのだろう。
敵のグラフィックも可愛らしいものが多く、序盤ではウサギやウシ。中盤でもユキダルマのような風貌が見られる。一つ一つにつけられている「○○なxx」(元気なウサギ)のような名前もコミカルで面白い。
BGMは良曲が多く、重要イベントにて流れるオルゴールの音は印象的。ダンジョンのBGMも素晴らしいが、長時間聞かされることを考えれば鬱屈とすることも。
キャラクター
これはかなり良い。
主人公、魔王、勇者、学者、偽魔王x3に加え、非戦闘員である王女。
主要キャラはこのあたりだが、村人Aにまでしっかりとキャラがつけられており、物語のコミカルさというか軽さを構築している。
主要キャラについて大雑把に紹介する。
主人公(名前任意、デフォルト名はルカ)
影が薄い。発言は大体聞いてもらえない。
プレイヤーの選ぶ三択が彼の言葉になるので、時として口の悪い少年になることも。
初期装備は「木の枝」
スタン(魔王)
主人公の影を間借りしている魔王。
封印されている間に力をちょろまかされ、弱体化中。
かなりの悪を自称しているが、作中では玄関マットをひっくり返したりして満足している。
王女や勇者と口喧嘩をしている辺りからは威厳は感じられず、部下にもどこか軽くあしらわれている感がある。
憎めないお馬鹿偽悪者。
ロザリー(勇者)
以前、スタンが封印されているツボに触れてしまい、色々あって影がピンクになってしまっている。
影を直すためにスタンを追いかけていた。スタイルは悪い模様。
勇者のわりに、己のために主人公を殺そうとしてくる恐ろしい人。
PTのツッコミ役だけどお世辞に弱い。
キスリング(学者)
変人。趣味は足の爪切り。
すごい学者らしいが、それを上回る変人っぷり。
お化けのことを愛しており、お化け研究のために勇者の傍にいようとPTに加入する。
マルレイン(王女)
ツンデレヒロイン。
ビンタで主人公を倒す程度の力を持っている。主人公を召使とし、スタンと言い争うほど。口喧嘩は結構強い。
主人公母に料理を教わったり、お礼に花を探したり、嫉妬で拗ねてみるものの申し訳なさを感じてみたり。と、古き良きツンデレっ子。
彼女の存在が物語りの重要な部分を象っている。
魔王s
アイドルを目指し、実際になっちゃうリンダ。かなりぶりっ子。
男くさいことを好むブルック。スタンを兄貴と慕う。
意味深に出てきて最終的に仲間になるエプロス。加入時の雑魚っぷり。
全体的にかなりコミカルな構成となっているが、PT内で上手くボケとツッコミが回っている。
戦闘終了後のポーズ等にもキャラの個性が出ているので、好きなキャラを使うのがオススメ。
彼らの会話があってこその物語、といえるほどに会話は印象に残るものが多い。スタンとロザリーの小学生かと疑ってしまうほど低レベルな口論は必見。
モブとの会話にPTが入ることもあり、あっさりとした絡みではあるが、モブのボケっぷりにも笑わせてもらう。
主人公の家族など、魔王が取り付いても何もなかったかのように笑っている。スタンの意思によりルカの旅立ちが決定してしまったときも、笑って送り出した。
ストーリー
前半コミカル。後半シリアス。
この落差に思わず引きこまれる。
PTの雰囲気は殆ど一定といえるが、周囲の雰囲気やプレイヤーの気概が明らかに変わる。
大前提として、この世界には「分類」と呼ばれるものがある。
一人一人に「勇者」や「魔王」「居眠りばかりの役人」といった「分類」が与えられている。そのため偽魔王が出現した際には、分類表(各役所に王都から配布される)に「魔王」が並ぶ事態に陥っている。ちなみに、主人公の名は何故か見つからない。
前半はこの「分類」はあまり関わってこない。
モブの名前に「xxな村人」のような形容詞がつく、魔王や勇者(登録制)がある、といった認識程度のもの。しかし、後半はこの「分類」が大きく関わってくる。
ターニングポイントとなるのが5章。前章で、主人公の特性(影が薄い)が強調され、主人公は”世界に無視される”状態に陥る。(このため、エンカウントも発生しなくなる)この時、主人公は誰にも認識されず、家族からも(一人を除いて)存在を忘れさられてしまっている。つまり、主人公が”いなかった場合の世界”がそこに展開される。
そこでは、スタンは正しく悪逆非道の大魔王。ロザリーはそれに対抗する大勇者。として存在している。状況に困惑していると、主人公と同じような状態に陥っている人達ばかりが集まっている町(トリステ)に辿りつくことができる。ここで、世界の有り方に違和感を覚え、主人公が存在を取り戻したとき、その違和感の正体がわかる。
この世界はベーロン(王女の執事として登場)によって作られた「箱庭」の世界である。「分類」は管理するために作られているもので、普通の人々は存在や「分類」に違和感を覚えることがないはずだった。しかし、主人公という「分類」から外れた者が生まれ、それと関わることで世界の歯車が狂い始めていた、ということが明かされる。
この時、王女が実は人形であることが判明したり、と物語が大きく動く。
その後は偽魔王を倒すのではなく、ベーロンを倒すことがPTの目的となる。
彼らは重い事実を知ることとなっているが、基本的に会話の雰囲気やテンションはあまり変わらない。物語のシリアスな部分は、キャラによって構成されるのではなく、受け取り手であるプレイヤーが世界の事実を知ってしまったがために感じる部分だ。
システムが面倒なのに二週目(引き継ぎなし)をプレイしてしまうのは、キャラやストーリーの完成度にある。何度も見たい、感じたい気持ちがそこにはある。
また、世界の真実を知ってからだと、引っかかる台詞がちょくちょく出てきていたりするので、それを探すのも楽しい。(始めの村に住んでいる人が、信仰深いとされているのに、教会の神様について知らなかったりする)
個人的には、この「分類」「箱庭」というのは、とても便利な設定だと思っている。
「箱庭」であるから、多少の矛盾や欠陥はあるだろう。
そう「分類」されているのだから、この違和感も触れられずにいるのだろう。
未完成な部分も、このように解釈することができる。無論、そこも意識して作られているのかもしれないが、この「どうとでも解釈できる未完成な部分」が、プレイヤーの想像力を刺激し、より深く物語に入り込ませる。
例えば、トリステにはかつて勇者と呼ばれた人間の家らしきものがあるが、特に触れられることはない。
主人公の祖母は彼のことを忘れない。主人公宅の近くにある意味深な墓は何か。最強の武器をくれる老人は何ものか。
その辺りのことは結局わからない。プレイヤーが想像するしかなくて、でもそれをただの手抜きだと感じさせないストーリーの運びや設定は素晴らしい。
どこかの誰かが書いていたことだけど、このゲームはシステムの悪さをストーリーやキャラで補いあまり、そのあまりが大きくて神ゲーと呼ばれている。
友人に胸を張って進められるか、と問われれば、その面倒くささを知っているだけに難しいところだ。
しかし、ならば駄ゲー、凡ゲーなのかと問われれば、否!否!な、わけで。
作品としては間違いなく神ゲー。
おまけ
ストーリーの中には「萌え」を連呼するイベント。
ロザリーと主人公妹の百合要素。
キスリングと主人公父の薔薇要素。
どれも当時のゲームというか、風潮?にしては珍しかったんじゃないかな。</span>